短編SF 残暑見舞い2012/08/28

短編SF

 残暑見舞い・・

「残暑見舞い・・・暑い日々ですが・・秋の気配が感じられる・」

 と葉書に書きつつ、外を見た。秋の気配が本当にあるのか・・挨拶と言え、嘘書く訳にはいかんし・・・」

そう思い三太郎は窓から木立を見た。確かにツクツクボウシも鳴いてはいるが、ニイニイゼミや、クマゼミも相変わらず鳴き続けている。なんかおかしい・・・蝉たちが季節を忘れてしまったか。

そのまま、9月も半ばになった。気温は30度から下らず、蝉も鳴き続けた。不思議なのは、それらに混じってホトトギスやらカッコーやらが遠くから聞こえてくる。

「季節崩壊・・・」そんな言葉が思い浮かんだ。悪夢なのか・・・しかし、部屋はしっかり空調が効いて快適である。悪夢なら覚める事もあるだろう。そう思い三太郎は、快適な寝室でぐっすり眠った。

次の日、目覚めると、外は雪景色だった。夏の青葉のままの木々は雪に埋もれている。雪の上に蝉達がばらばらと落ちて死んでいる。カエデは色づく事なく、凍り付いている。

三太郎は、狂ったように外に飛び出そうとした。この奇妙な景色や季節の原因を知りたかったのだ。でも、居住空間からは自動ドアが閉まって出られない。三太郎は、骨董品の鉄アレイを窓にぶつけてたたき割った。そして外に出た。

・・・そこは、乾燥した石ころばかりの荒野だった。奇妙に風が吹き、風力の羽やら地熱発電やら、広大なバイオ発酵のエネルギー工場が広がっていた。後ろを見た。自分が快適に暮らしていた居住地は、巨大なスクリーンに取り囲まれたドーナツ状の巨大装置だった。ここに、すべての人類は閉じ込められ、青空も季節の移り変わりも季節もバーチャルとして人々に示される。もう本物の生き物に触れた事のない世代が増えたから、多少いい加減な自然でも見破る者は、もういなかった。

「おい、4s8ie 区域の 旧人類系のやつが、外に飛び出してしまったぞ。」

居住空間コントロールセンターの係員が言った。

「ありゃ、また古い季節感を残余しているやつが、なんか気づいて、飛び出したか・・・」

同僚の係員は

「゛ありゃ、いけない。季節コントロールプログラム、一カ所間違えた・・。これじゃ、春と夏のいきものが、混ざったしまう。」

「どうする、飛び出したやつ。」

「ほっとけ、もうすぐ、強風が吹くから、飛ばされて死ぬしかないよ。」


22世紀になって、地球は「居住空間」と呼ばれる人類か済む閉鎖空間と、外の環境に完全に分離されていた。環境負荷を遙かに超える人口を養うには、風力、太陽光、水力、地熱・・・バイオ・・あらゆる「自然エネルギー」が繰り出された。地球温暖化・・というより乱流拡大現象は、21世紀の半ばに、海水中からの莫大な二酸化炭素が放出により、破局的に働き、竹の類とフナクイムシの突然変異体を残して生存できなくなった。

人類は、エネルギーさえあれば、生き延びられる持続可能な閉鎖系を頑丈に作り上げた。宇宙船地球号として、それは地球から浮かんだ形でへばりついていた。人々の暮らしは、そのまま、いや、バーチャル化、情報化を高度に進めて、季節も、すべての生き物も遺伝情報として精細に記録して残した。

文化遺産もあらゆる古文書も、スキャンして記録装置に保存された。破局に至る直前の地球上のあるゆる動植物から土壌・海水中まで巨大スキャナーで記録され、「自然遺産」としてデジタルに保存された。そのデジタル情報を人々は操作して、季節を味わい、歴史発見をして、自然と親しむ活動をした。微細な所では、情報は不完全だったが、それを感じ取る自然感覚をもつ者は少数だった。それを残余したやつが、時々、居住空間から飛び出して、自殺状態で淘汰されていった。

カレンダーを見て、残暑見舞いを出す。・・・そんな慣習でしか、人々は季節を味わう事はできない。鋭敏な季節感覚などもてば、飛び出して抹殺されるしかない、この時代の地球なのだ。